犬のストレスサインについては、多くの研究が行われています。その中でもよく引用されるのが、オランダの研究者 Beerdaら(1998) による研究です。
Behavioural, saliva cortisol and heart rate responses to different types of stimuli in dogs
Applied Animal Behaviour Science Volume 58, Issues 3–4, July 1998, Pages 365-381
この研究では、犬にストレス刺激を与えたときに
- 行動
- 唾液コルチゾール
- 心拍数
がどのように変化するのかを同時に測定し、犬のストレスサインを科学的に評価しました。
ここでは、この研究の内容を分かりやすく紹介します。
研究の背景と目的
近年、動物福祉(animal welfare)への関心が高まり、犬が生活環境をどのように感じているのかを客観的に評価する方法が求められています。
しかし犬のストレスを評価するためには、
- どの行動がストレスサインなのか
- 生理反応とどのように関係するのか
を明確にする必要があります。
そこで本研究では、
犬の急性ストレスが行動・生理反応にどのように現れるか
を明らかにすることを目的として、
- 行動観察
- 唾液コルチゾール
- 心拍数
を同時に測定しました。
また、行動と生理指標がどの程度一致するかを調べました。
研究方法
研究には
- 10頭の犬(ビーグル犬など6犬種)
- 性別・年齢はさまざま
が使用されました。
個体差の影響を考慮するため、犬の背景はあえて統一されていません。
ストレス刺激
犬に対して、次の 6種類の刺激が与えられました。
- 押す(press)
- 引っ張る(pull)
- 傘を開く(umbrella)
- 袋を落下(bag)
- 大きな音(noise)
- 電気刺激(shock)
これらは、地域倫理委員会の承認を得て、行われました。
測定した指標
研究では次の3つの指標が同時に測定されました。
行動
犬の姿勢や行動を詳細に記録
(ストレス刺激の30分前~30分後)
唾液コルチゾール
ストレスホルモンの指標であるコルチゾールを測定
(ストレス刺激の30分前~60分後)
心拍数
交感神経の反応を評価するため心拍数を測定
(ストレス刺激の30秒前~300秒後)
結果
強いストレス刺激
犬が予測できない刺激
- 大きな音
- 電気刺激
- 落下物
では、
- 唾液コルチゾールが上昇
- 非常に低い姿勢(very low posture)
が観察されました。
つまり
👉 極端に低い姿勢は強い急性ストレスのサイン
である可能性が示されました。
中程度のストレス
実験者が見える形で与える刺激
- 押す
- 傘を開く
では、
コルチゾールの上昇は見られませんでしたが、次の行動が増加しました。
落ち着きのなさ(restlessness)
- 体を振る(body shaking)
- 口周りの行動(oral behaviour)
- あくび
- 口を開ける
- 姿勢をやや低くする
これらは
👉 中程度のストレスサイン
と考えられます。
心拍数
すべての刺激で
心拍数は大きく増加
しました。
ただし、
刺激の種類に関係なく増加したため
👉 ストレスの種類を特定する指標としては限定的
であると結論づけられました。
回復時間
ストレス刺激が終了すると
- 心拍数:約8分で正常化
- コルチゾール:約1時間で正常化
しました。
行動と生理反応の関係
意外な結果として
行動指標と生理指標の間には明確な相関は見られませんでした。
つまり
- 行動だけ
- 生理指標だけ
ではストレス評価が難しい場合があることが示唆されました。
まとめ
この研究から、犬のストレス行動について次のことが示されました。
✅強い急性ストレス
- 非常に低い姿勢
✅中程度ストレス
- 落ち着きのなさ
- 体振り
- 口周りの行動
- あくび
- 口を開ける
- 姿勢低下
✅心拍数はストレス刺激で上昇するが特異性は低い
✅行動と生理反応は必ずしも一致しない
この研究は、現在でも犬のストレスサイン研究の基礎論文
として
広く引用されています。

